不動産賃貸において仲介手数料を無料にしてくれる不動産会社が増えてきました。
そもそも、仲介手数料は何のために支払うもので、その額はどのように決まるのでしょうか。
なぜ、一部の不動産会社は仲介手数料を無料にできるのでしょうか。
この記事では、仲介手数料が無料になる仕組み、メリット・デメリット、仲介手数料無料に関して起こり得るトラブル事例、トラブルを避けるための対策とトラブルにあった時の対処法を解説します。
不動産賃貸における仲介手数料とは?
不動産賃貸における「仲介手数料」は、仲介業務、つまり物件の貸主と借主の橋渡しをしてくれる不動産会社に対して支払う対価です。
賃貸物件の仲介業務の具体的な内容は、
- 貸手に対して物件のチラシを作成して借主を募集
- 借手に対して希望条件をヒアリングし条件に合った物件を探して紹介
- 借手が内見を希望したら、内見の段取りを付け借手に同行
などがあります。
また、借手が物件を選んだら、
- 入居者審査
- 賃貸契約書作成
- 契約立ち合い
- 物件引渡し
まで総合的にフォローしてくれます。
なお、仲介手数料は成功報酬であるため賃貸契約が成立した時のみ不動産会社に支払います。
不動産会社に家を探してもらったが契約に至らなかった場合は支払い不要です。
ちなみに、借主が契約時に支払う初期費用にはこの他「敷金」・「礼金」などがあります。
仲介手数料は不動産会社に支払うものであるのに対し、敷金・礼金はオーナー(貸主)に支払う初期費用です。
「敷金」は貸主に預けるお金で原則として退去時に返還されますが、借主が家賃を滞納したり修繕が必要になったりした時は家賃滞納分や修繕費に充てられます。
お礼としての意味合いを持つ「礼金」は貸主に支払う一時金で返還されません。
不動産賃貸における仲介手数料の額
不動産賃貸における仲介手数料の額については、法律で上限が決まっています。
国土交通省が定める「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」によると、貸主・借主合わせて家賃1月分(+消費税)が上限です。
たとえば、貸主と借主の双方から家賃の0.5ヶ月分ずつ徴収することもできますし、当事者の事前の承諾があれば貸主・借主のどちらか一方のみから家賃の1ヶ月分徴収することもできます。
ただ不動産会社はこれまで慣例的に、十分な説明をしないまま借手に家賃の1ヶ月分の仲介手数料を請求していました。
その結果、借主の初期費用は、仲介手数料として家賃1ヶ月分、敷金・礼金がそれぞれ家賃2ヶ月分、初月の家賃、と合計で家賃6ヶ月分になることも珍しくありませんでした。
また、不動産会社は借主側に仲介手数料1ヶ月分を請求する一方で、貸主側に対しては「広告料(AD)」という名目で請求することもありました。
広告料は『依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額』(国土交通省)、すなわち通常の仲介業務に含まれない特別な広告費用で、仲介手数料とは別のものです。
現在、借主が支払う仲介手数料の相場は家賃の0.5~1ヶ月分ですが、不動産会社によっては仲介手数料を無料にしてくれることもあります。
仲介手数料が無料になる理由
では、不動産賃貸において借主の仲介手数料が無料になるのはなぜでしょうか。
その理由は、不動産会社が貸主である場合と、貸主のみから仲介手数料を受け取る場合に分けられます。
不動産会社が貸主
不動産会社が貸主で自ら借主を募集する場合、そもそも仲介業務が発生しないので仲介手数料の支払は不要です。
不動産会社 = 貸主の物件には、不動産会社が所有している物件と不動産会社が借り上げている物件(サブリース契約物件)の2種類があります。
- 不動産会社所有物件
不動産物件を不動産会社が所有している場合、家賃収入が不動産会社にとっての主な収入です。
- サブリース契約物件
不動産会社が不動産物件の所有者(オーナー)から物件を借り上げている場合、その不動産会社が貸主となって入居者を募集します。
不動産会社の主な収入は、不動産会社が「入居者から徴収する賃料」と「オーナーに支払う賃料」の差額です。
貸主のみから仲介手数料を受け取る
借主の仲介手数料が無料になるもう一つの理由として、不動産会社が貸主のみに仲介手数料を請求するケースがあります。
既にご説明した様に、以前は借主のみに仲介手数料を請求することが多かったのですが、現在の日本は人口減少社会であり、居住用賃貸マーケットは「借り手市場」と言われています。
貸主は空室を埋めるために自らが仲介手数料を全額負担してでも、入居者を早く見つけたいと思っています。
数ヶ月もしくはそれ以上空室のままにしておくよりも、仲介手数料として家賃の1ヶ月分を負担したとしても早期に空室が埋まる方が賃貸経営上有利だからです。
仲介手数料が無料になるメリット
仲介手数料が無料になるとメリットがあるのでしょうか。以下でご説明します。
初期費用が抑えられる
借主にとって仲介手数料が無料になるメリットは、何と言っても初期費用が抑えられることです。
賃貸物件に入居する際には、仲介手数料以外にも貸主に支払う敷金・礼金、引っ越し費用、家具購入費など様々な費用がかかります。
仲介手数料が無料になれば、最大家賃の1ヶ月分を節約できます。
借主以外にもメリットがある
仲介手数料が無料になることでメリットがあるのは、借主だけではありません。
借主の仲介手数料を無料にすることで、入居者が早期に決まりやすくなります。
貸主にとっては空室が埋まって家賃収入が入るというメリットがありますし、不動産会社にとっては契約成立により仲介手数料を貸主から受け取ることができるメリットがあります。
仲介手数料無料にはデメリットもある
それでは仲介手数料が無料になると、いいことだらけなのでしょうか。実は、仲介手数料無料には借主にとってデメリットもあります。
以下で、仲介手数料無料に関して実際に起こったトラブルの事例をご紹介します。
仲介手数料無料に関して起こったトラブル事例
仲介手数料無料に関して起こりがちなトラブル事例を4つご紹介します。
不人気物件だった
仲介手数料は無料になったものの、以下のように物件自体が良くなかったというケースです。
- 駅からの距離が遠くてバス便も少ない
- 築年が古くて修繕状況も悪い
- 近隣に騒音が発生する施設がある
物件の人気度は時が経つにつれて変わります。
建築当初は良好物件だったとしても築年と共に物件の状態が悪くなったり、駅近辺に人気物件が建築されて相対的な評価が下がったりするためです。
仲介手数料以外の費用が高かった
借主の仲介手数料が無料になる場合、他の初期費用である敷金・礼金や、毎月支払う家賃・管理費などが相場に比べて高かったというケースがあります。
管理費は、管理に要する費用分を借主から徴収するものですが、徴収している管理費の一部を実質的に家賃収入の一部に充てている場合もあります。
家賃が相場より高くて入居者がなかなか見つからない場合、家賃を下げれば入居者がすぐ見つかるかもしれません。
ただ、家賃を下げてしまうとインターネットで情報が公開されることもあり、現入居者から苦情が出たり家賃の値下げを要求されたりすることがあります。
たとえば、家賃が月額12万円の賃貸マンションがあったとしましょう。
時が経って築年が古くなり、家賃相場が10万円程度の物件になったとしても、他の入居者の手前家賃を値下げしにくいのです。
このため家賃は12万円のまま据え置きにし、その代わりに仲介手数料を無料にして借主を見つけようとすることがあります。
仲介手数料以外の名目で請求された
仲介手数料が無料になって喜んでいたら、不動産会社から以下のような名目で費用を請求されて結局費用を支払ったというケースは多いです。
- 鍵交換代
- クリーニング代
- 室内消毒代
- 事務手数料
- 書類作成料
- 保証会社保証料
- 緊急時サポートサービス
不動産会社のサービスが不十分だった
仲介手数料が無料である反面、不動産会社から十分なサービスを受けられなかったという例も残念ながらあります。
たとえば、物件の希望条件を伝えたのに条件に合う物件をあまり探してくれなかった、内見を希望したのになかなか段取りを付けてくれなかった、といったケースです。
また、不動産会社が貸主である場合を除いて、借主の仲介手数料を無料にするためには、不動産会社は貸主から仲介手数料を徴収する必要があります。
このため、契約成立時に貸主から確実に仲介手数料を受け取れる物件(いわゆる「預かり物件(※)」)しか紹介してもらえなかったというケースもあります。
※貸主がその不動産会社一社のみに媒介を依頼している物件、つまり不動産会社が貸主と「専任媒介契約」または「専属専任媒介契約」を締結している物件のこと
仲介手数料無料のトラブルを避けるための対策や注意点は?
ここまで、仲介手数料無料に関して起きたトラブルの例を挙げてきました。それでは、これらのトラブルを避けるためにどのような対策を取ったらよういでしょうか。
不人気物件
不人気物件かどうかは、長期間同じ部屋を募集している、同じ物件内の部屋を複数同時に募集している、などから判断できます。
内見の際には、郵便受けの表札の有無、チラシが大量に入った郵便受けがないか、ベランダに物干し竿があるか、なども確認しましょう。
また、以下の点もよく確認してから判断しましょう。
- 交通利便性:駅からの距離、バス便の場合はバス停までの距離、朝夕のバスの本数
- 建物の状況:築年、建物の構造(木造、鉄骨造り、鉄筋コンクリートなど)、現地における実際の建物の状況
- 近隣環境:鉄道・幹線道路・工場などの騒音が発生する施設の有無、幹線道路に近い場合は排気ガスの程度
これらの条件が劣る物件は借りるべきではないという意味ではなく、あらかじめ承知した上で妥当な家賃で借りるのであれば問題ありません。
仲介手数料以外の費用が高い
家賃・管理費、敷金・礼金の額が高くないか周辺相場と比較します。
不動産ポータルサイトなどで近隣にある類似物件を比較すると大体の相場を把握できます。
物件を探す際は、仲介手数料の額だけでなく、それ以外の費用も含めた総額で比較検討しましょう。
たとえば、仲介手数料が無料で敷金・礼金はそれぞれ家賃2ヶ月分の物件と、仲介手数料は家賃の1ヶ月分だが敷金2ヶ月・礼金なしの物件を比べたら、後者の方が初期費用を抑えられます。
不動産会社にあらかじめ、トータルの予算をはっきり伝えておくのも一つの手です。
仲介手数料以外の名目の費用
上述した様に事務手数料など仲介手数料以外の名目で費用を請求されることがあるので、物件のチラシや物件概要を良く見てから検討しましょう。
もし不明な名目の費用請求がある場合には、その都度、問い合わせをして内容を確認しましょう。
不動産会社のサービスの質
仲介手数料が無料でもサービスの質が良い不動産会社は、以下の点に留意して選びましょう。
- 不動産会社が自ら仲介手数料無料を謳っていて、無料にできる理由を明示している
- 紹介できる物件、特に貸主から媒介依頼されている「預かり物件」が豊富にある
- 問い合わせの連絡をした時や内覧時の対応が良い
借主から仲介手数料無料を不動産会社に交渉した場合よりも、元々仲介手数料無料サービスを行っている不動産会社の方が、サービスの質が高い傾向にあります。
また、借主の仲介手数料を無料にする分貸主から仲介手数料を徴収することが多いので、貸主から預かっている物件が豊富な不動産会社の方がたくさんの物件を紹介してもらいやすいと言えます。
なお、可能であれば繁忙期(1~3月)を避け閑散期(7~9月)に部屋を探した方が、不動産会社に時間的余裕があり、かつ貸手は借手を見つけにくい時期なのでお勧めです。
実際に仲介手数料無料のトラブルに合ってしまった場合は?
なお、気を付けていても仲介手数料無料に関するトラブルにあってしまうことはあります。
その場合の対応法についてご紹介します。
- 仲介手数料以外に請求された費用で内容がよく分からないものがあれば、支払い必須のものなのか不動産会社に問い合わせる。
- 仲介手数料以外の敷金・礼金などの額や仲介手数料以外の名目で請求された費用が高く予算に合わない場合は、別の物件を自分で探すか、予算をきちんと伝え不動産会社に探してもらう。
- 不動産会社の対応があまりに悪い場合は、不動産会社を替える。近年では必ずしも物件に近い不動産会社や大手不動産会社だけでなく、インターネットで自分のニーズに合った不動産会社を探すことも可能です。
なお、仲介手数料無料に関するトラブルを避けるためには、仲介手数料以外の初期費用が安い物件を探すのも手です。
敷金・礼金なしの物件や、最近では家賃が一定期間無料になるフリーレントの物件も増えてきました。
ただ、なかなか入居者が決まらないからフリーレントにしていることもあるので、仲介手数料無料と同様、契約前の注意や確認が必要です。
賃貸の仲介手数料無料のデメリットを理解してトラブルを避けよう!
この記事では、賃貸における仲介手数料とは何か、仲介手数料が無料になる理由、仲介手数料が無料になるメリットをご説明し、仲介手数料無料に関して起こったトラブル事例をご紹介しました。
以前は借主から仲介手数料を家賃の1ヶ月分徴収し、貸主からは「広告料」として家賃の1ヶ月分徴収するケースもありました。
仲介手数料は貸主・借主合わせて家賃の1ヶ月分が上限と決められているにもかかわらず、実質的に家賃の2ヶ月分を不動産会社が徴収していたと言うこともできます。
昨今は不動産業界の不透明性や報酬のグレーゾーンに関して世間の目が厳しくなりました。
また、インターネットの普及により情報開示かつ業務効率化が進んだ結果、仲介手数料を無料にしてくれる不動産会社も増えてきました。
こうした潮流は借主にとって大きなメリットであると同時に、上述したような仲介手数料無料のトラブルが起こることもあります。
この記事に書いたトラブル回避策を取りながら、不動産会社と物件を賢く選びましょう!